BAR CINEMA~この映画に乾杯!(第1回)『カサブランカ』 ――シャンパンとシャンパンカクテル

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第1回:カサブランカ――シャンパンとシャンパンカクテル

 

BAR CINEMAへようこそ。

このバーでは、皆さまの記憶に残る映画の名シーンを彩った素敵なお酒を、映画の時代背景、お酒の由緒・成り立ちと合わせてご紹介し、ご賞味いただきます。

 

1827年に創業したシャンパンメゾン・マムの主力銘柄『コルドン ルージュ』。コルドン ルージュ=赤いリボンがラベルを華やかに彩る。
1827年に創業したシャンパンメゾン・マムの主力銘柄『コルドン ルージュ』。コルドン ルージュ=赤いリボンがラベルを華やかに彩る。

 Here’s looking at you, kid.

お酒が登場する映画の名シーンと言えば、やはりこれ。
1942年に公開された『カサブランカ』。ハンフリー・ボガード演じる主人公リックが、かつての恋人イルザ(イングリッド・バーグマン)に向かって語るこの台詞です。
「君の瞳に乾杯」という日本語訳(故 高瀬鎮夫氏による)は、神懸かり的な名訳といっていいでしょう。
男なら、一度は言ってみたいこの台詞。
しかし、実際に口説き文句として使ったらどうなるか……、怖い! 私にはとても使いこなせる言葉ではなさそうです(涙)。

この映画は、第二次世界大戦下のフランス領モロッコのカサブランカを舞台にした物語です。
1940年、ナチスがヨーロッパ各地を次々と占領し、人々はポルトガルの首都リスボン行きの航空券を求めてカサブランカへ集まってきます。
かつてパリで「オーロラ」というバーを営んでいたリックも、今はこの地で「リックス・カフェ・アメリカン」というバーを経営していました。
そこへ、パリで行方がわからなくなってしまったイルザが現れて……。

この映画の中でたびたび登場するお酒が、フランスの銘酒シャンパンです。
二人がパリのバーで「君の瞳に乾杯」していたのがシャンパンで、その銘柄はマム。
エチケット(ラベル)に斜めに入った赤いラインが目印で(映画はモノクロなので色はわかりませんが)、現在の商品ラインアップでいうと「コルドン ルージュ」というシリーズになるでしょう。

ご存じの方も多いと思いますが、シャンパンはフランスのシャンパーニュ地方で生産される発泡性のワインです。
なので、発泡性(スパークリング)ワイン=シャンパンというわけではありません。
パリから北東150kmに位置するこの地域で作られたブドウのみを使い、瓶内での発酵によって自然に生じた炭酸ガスで発泡するもの。
使ってよいブドウ品種は、シャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエほか8種類と規定されており、さらに一定のガス圧をクリアしたものだけが、「シャンパン」の呼称を得ることができるのです(一般的に、シャンパンのガス圧は4.5~6気圧くらい。そのほかのスパークリングワインは2.5~4くらいです)。
さわやかな酸味とブドウの果実味豊かなこのお酒は、繊細かつ力強い泡立ちで飲む者を魅了します。
パーティーなどの祝宴の乾杯にふさわしいお酒ですが、ふたりが愛をささやき合う時にも“効果的”なお酒です。

 

キャプション シャンパンと砂糖、苦味酒(ビターズ)で作るカクテル「シャンパンカクテル」。
シャンパンと砂糖、苦味酒(ビターズ)で作るカクテル「シャンパンカクテル」。

この映画では「シャンパンカクテル」という名のクラシカルなカクテルも登場します。
ナチス抵抗運動の指導者で、イルザの夫ラズロ(ポール・ヘンリード)がカサブランカに逃れてきて、リックの店に初めて現れるシーン。
ラズロはイルザとともにテーブル席に座ると、フランスを代表するオレンジリキュール「コアントロー」を注文します。コアントローは甘口のお酒で、食後酒としてよく楽しまれるもの。
おそらく二人は食事を済ませてきたのでしょう。
そこへ、レジスタンスの仲間がラズロに近寄ってきます。
ラズロは妻のイルザをテーブルに残し、その男が待つカウンターに移って「シャンパンカクテルをふたつ」とバーテンダーに頼みます。
このシーンのこのお酒は、仲間に会ったラズロの高揚した気分を表しているのではないでしょうか。
コアントローでその夜を締めるはずが、思わず「乾杯」から再スタートすることになったのですから。
シャンパンカクテルのレシピは至って簡単です。
グラスに角砂糖をひとつ入れ、アンゴスチュラビターズというラムをベースにした苦いお酒を数滴垂らします。
そこにシャンパンを注ぐと、シルクのような泡がきめ細やかに上がってきます。
最初のひと口は辛口のシャンパンですが、徐々に角砂糖の効果が表れて、甘い味わいに変わっていくという、楽しいカクテルです。
ビターズさえあれば、ご家庭でも手軽に作れますから、ぜひお試しください。

 

第1次世界大戦の時に、パリのアンリ・バーで誕生したカクテル「フレンチ75」。
第1次世界大戦の時に、パリのアンリ・バーで誕生したカクテル「フレンチ75」。

最後にもう一杯。
「フレンチ75」というカクテルも登場します。
これはフランスの勝利を祈って生まれたカクテルで、75口径の大砲がその名の由来です。
レシピはドライジン、レモンジュース、砂糖をシェイクしてグラスに注ぎ、さらにシャンパンを注ぐというもの。
リックにフラれたフランス人女性イボンヌがリックの店のカウンターで、ドイツ兵とふたりでオーダーするのがこのカクテルです。
彼女の周りの客は「ドイツ兵と飲むなんて、なんて女だ」とささやきますが、そのカクテルの意味を考えると、皮肉に思えてきます。
このシーンは、このカクテルの由来を知らずにオーダーしてしまうドイツ兵を小馬鹿にしているのかもしれません。

 

ちなみに、フレンチ75のシャンパンを普通のソーダに代えると、ジンフィズになります。
ですが、フレンチ75を作る際にはより注意が必要です。
普通のソーダと違い、シャンパンには酸味があります。
だから、同じ調合で作ると味が酸っぱくなってしまうのです。
かといって、レモンジュースの量を抑えると間の抜けた感じになってしまう……。
ということで、私はレモンジュースも砂糖もガッチリ入れてしまうようにしています。
ただし、使う砂糖は和三盆。
甘味がさわやかな和三盆を使うことで、酸味とのバランスがうまくとれ、風味豊かな味わいに仕上がると思います。
フレンチと和の出会いで生まれるこの一杯、バーテンダーとしての腕の見せ所です。

 

1972年東京・八王子生まれ。銀座と新宿のバーで研鑽を積み、2004年銀座にバー・エヴィータをオープン。
1972年東京生まれ。銀座と新宿のバーで研鑽を積み、2004年銀座にバー・エヴィータをオープン。

 

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